RESEARCH
アート × サイエンス
ヒトの「美」とヒト以外の動物たちのもつ美しさはつながっている。なんとなくでも、そう感じたことのある人は多いのではないでしょうか。私もそのひとりで、今、その感覚はあながち幻想でもないと考えています。私は小さい頃、野生動物たちの美しく洗練された求愛に魅せられ、研究者を志しました。そして現在、かれらのこの美しく洗練された姿かたちや行動は、生物の持つ知覚や認知をふんだんに利用した進化の賜物だということが多くの研究からわかりはじめています。そのような知覚や認知の中には種に特別なものもあれば、私たちヒトと共通するものもきっとあることでしょう。ヒトとヒト以外の動物たちとで異なるもしくは似ている知覚や認知を解き明かしていくことは、私たちが進化の道筋で得た「美」へとつながっていく。そのような考えに基づき、現在、アートとサイエンスをつなぐ研究活動を行っています。
ネズミの音声コミュニケーション
ネズミの鳴き声と言えば?そんな質問をすると、大半の人は「チューチュー」と答えるのではないかと思います。国によっては少々違って、「スクィーク」だったり「ジージー」だったり…。私が実際に聞いた感じでは「キッ」や「クックッ」が近いでしょうか。これらはそれぞれの人が聞こえた感じなので、どれも間違いではないでしょう。ですが、みんな半分は間違えている、とも言えます。なぜかというと、ネズミの多くは、私たちには聞こえないほど高い、超音波帯域の音でも鳴いているからです。この超音波帯域の音、実は特殊な録音機器を使うことで「見る」ことができます。私たちには聞こえない彼らの鳴き声を「見て」みると、実は、想像よりもずっとおしゃべりなかれらの世界が広がっているのです。
マウス
(ハツカネズミ)
研究施設でよく対象とされているのが、ハツカネズミ。通称「マウス」と呼ばれています。特にオスは複数の音声パターンを組み合わせて、メスに求愛します。これらの音の特徴が、オスの強さやストレス状態とどのように関わっているのか、またメスはこの音をどのように判断しているのかを調べています。
野ネズミ
(アカネズミ、ヒメネズミ)
アカネズミは森に住む代表的な野ネズミ。かれらも超音波帯域の音をつかってコミュニケーションをとっています。そんなかれらのコミュニケーションが、身体の構造や暮らし方とどのように関わっているのかを調べています。今後はヒメネズミという小さめの野ネズミも調べていく予定です。
音響環境エンリッチメント
私たちの身体の状態や行動は、環境に大きく左右されます。環境が貧しいと、私たちの精神も不健康になってしまうのです。そしてそれは、動物たちも同じ。近年、動物園などでは動物たちの暮らす環境を豊かにしようとおもちゃや食事を工夫することが増えてきました。しかし、目に見えない音環境というものはないがしろにされがちです。私は音環境が与える影響を、ネズミ目を対象に検討して明らかにすることで、飼育動物や伴侶動物、そして私たちヒトの環境をよりよくしたいと考えています。